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中世ヨーロッパの生活呪文
(増補改訂版)第7回
「回復の呪 文」
テンプラソバ
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おはようございます!
中世ヨーロッパと西洋風ファンタジーが大好きなテンプラソバです。
中世ヨーロッパの生活に密着した呪文についてのコラムの第7回「回復の呪文」となります。
紹介する呪文は、中世に書かれた医学書などに記載され現代まで伝わるもので、フィクションではなく実際に使われていた可能性が高い、ある意味「本物」の呪文です!
舞台は、中世前半のイングランドのとある田舎の村です。
※注意
呪文や歴史背景などに関する内容は参考文献を元に書いています。
参考文献は記事の最後をご覧ください。
ドラマパートは私が創作したフィクションです。
■ドラマパート前回のあらすじ
ブラートンの森で待ち構えていた怪しい武装集団。
その中にメイソンの姿を見つけたエドリックは声をかけた。
怪しい集団の首領らしき大きな男は、ハマートンを併合しようとブラー家が画策していたことを、ばらしたうえで襲い掛かる。
抵抗するエドリックだったが肩を槍が貫通し、動けなくなったところでまばゆい光に包まれたのだった!
■登場人物
エドリック・ハマー ハマートンの領主
ハードウルフ ハマートンの司祭でリーチ(医師)、呪文詩を駆使する
エドマ・ハマー エドリックの妻、お腹の子がもうすぐ産まれる
ロドルフ・ハマー エドリックの父
ミルドイナ・ハマー エドリックの母
エグビン ハマー家の家人、エドリックが頼りにする男
エリク 元デーン人(ヴァイキング)で、ハマー家の警備担当
フレッチャー ハマー家の警備担当。普段はエリクに鍛えられている
メイソン ハマートンで牛泥棒など良からぬ事を企む者
◆「裁きと回復と」
■ワイルドハント
肩を槍で突き貫かれ、大柄の男が戦斧を振り上げとどめを刺しにくる光景を見たエドリック。
「これまでか」とそう思った刹那、目の前がおおきなまばゆい光に包まれた。
その光は襲い掛かってくる大男をも包みこみ、次の瞬間大音響とともに周囲を吹き飛ばした。
エドリックは、大木に打ち付けられ、背中の激痛と大きな耳鳴りに包まれた。
激痛でぼやけた頭で彼が見た光景は、地面をほとばしるいく筋もの雷光だった。
轟音と共に雷が戦場に落ち、よく枯れた葉や草が燃え始めあたりは煙に包まれだし、撃たれて黒焦げになるもの、逃げ惑う者とで騒然としている。
消えゆく意識の中でエドリックは、空に凄絶な笑顔で地面に向かいあざけりの笑いを浮かべる猛き乙女たちと、その中央に馬にまたがり長髪につばが広い帽子を目深にかぶった男が見えたような気がした。
そしてその男の雰囲気がハードウルフに何となく似ているとも感じつつ、エドリックの意識は切れた。
■回復の呪文
日が西に傾く頃、ハマートンの人々が収穫後の畑の周りをぐるりと取り囲み、中心を見ながら両手を合わせて祈っていた。
畑の中心にはハードウルフが一人で立って、何かを祈っている。
彼の服は普段着ではなく、キリスト教のミサをする際に使用する白く立派なものだ。
離れた所には、エドマ、ロドルフ、ミルドイナの3人が並んで立っている。
村人総出で、畑の地力を回復する儀式をしているのだ。
1日がかりの儀式を経た最後のしめくくりとして、ハードウルフがそのよく通る声で祈るように最後の呪文を唱えていた。
「エルケ、エルケ、エルケ、大地の母よ、
全能の神、永遠の主が汝に与えんことを、
成長し繁茂する土地を、
繁栄し実り豊かなる(土地を)、
輝けるキビの穂を、
また小麦の穂を、
また大地より収穫さるる なべての穀物を
永遠の主が彼に確約せんことを、
天に居る彼の聖者らが(確約せんことを)、
彼の作物あらゆる敵に対し守られんと、
あらゆる害悪に対し
土地じゅうに広がりし魔術による(害悪に対し)。
我この世を創造りたる君主に祈らん
いかなる女子もさほど雄弁ならず、いかなる男子もさほどならず、
かく語られし言葉を覆すほどには、」*
呪文を唱え終わると、あたりに静寂が訪れた。
皆、頭を垂れて祈っていた。
その祈りは畑の地力だけでなく、領主エドリックの無事の帰還も兼ねていたのだろう。
ふと少年が夕闇の中で何かに気づき、
「あれは何?」
と指をさす。
少年が指さした方角を見た大人数名が、夕闇の中を動く怪しくきらめく赤い光を見た。
ざわつきに気づいたエドマが、騒ぎの方角に目を凝らした。
彼女は、何かに気づいて呻き声をもらし急に赤くちらつく光に向かって駆けだしたのだ。
エドマの使用人があわてて後を追いかける。
使用人は大声で、
「奥さま!走るのは危のうございます!」
と警告する。
しかし、エドマの耳には入っていない様子だ。
エドマにつられて、村人十数名も赤い光をめざす。
それは馬だった。
スノターが足をやや引きずりながらこちらに向かって来ていたのだ。
荒い鼻息と憔悴した顔が痛々しい。
スノターの背中には誰かが横たわるように乗っていて、その指先で金属か宝石かが夕日に赤く照らされきらめいているのだ。
それは、エドリックだった。
マントは全部ちぎれ去り、鎧の肩や腕の部分が裂け、中から深い傷が見える。
かなりの重傷だ。
しかし不思議な事に、血は乾き切って止まっているように見える。
そして指にはめている指輪が、奇妙な事に夕日に照らされ赤くほのかに輝いているのだ。
エドマは呆然とした顔で、スノターに走り寄り震える手でエドリックに触れる。
エドリックは、目を閉じてピクリとも動かない。
しかし、まだ温かい。
「あなた…エドリック、お願いよ……お願い……」
そう祈るように言いつつ、首筋をさわると脈がある!
弱弱しいが呼吸もしている。
「ハードウルフ!ハードウルフ早く来て!
エドリックよ!!
まだ息がある!
おねがい!お願い!!!」
エドマが振り返り、こちらに向かって走ってくるハードウルフにとても大きな声で叫んだ。
周りの村人もエドリックにかけよりスノターから降ろし、ハードウルフの診療所に急いで運ぼうとしている。
もちろんハードウルフとエドマもそれに続いた。
「生きて戻るという誓い。よくぞ果たした……」
館に運ばれるエドリックを遠くから見ていたロドルフはそうつぶやく。
頬に涙を流した母が、父の肩にそっと手をおくと、父はその手をそっと握り返した。
■裁きと回復
エドリックの帰還から数か月がたったある日のことだ。
イングランド王エドガーは、とある伯爵(エアルドールマン)が最近実施した裁判についての報告を受けていた。
まず、ブラートンを治める従士(セイン)のシグヘルム・ブラーより、隣領地であるハマートンをブラートンに併合したいという訴えがあったという。
訴状によると、ハマートンの領主ハマーは統治能力がないために牛がしょっちゅう盗まれ、作物は育ちが悪く、あげく領主のハマーは野外をふらついている時に野盗に殺されたため、不満を持ったハマーの領民たちがシグヘルム・ブラーに併合を訴えているということであった。
伯爵(エアルドールマン)は直ちに調査官を任命し、ハマートンに派遣し詳しく調べさせた。
一方で、伯爵(エアルドールマン)は配下の従士(セイン)達を「集会」に招集し、ブラーの訴えについて裁判を実施すると宣言した。
裁判にて調査官達は、まずブラーの訴える内容に一致する噂を確認したと報告した。
その報告にわが意を得たりと得意になったブラーに対して、調査官はこうも言ったそうだ。
「その噂の反証を連れてきた」
まず、連れてこられた男はメイソンと名乗った。
彼の目の焦点はややあってないものの、宣誓の後に自分がシグヘルム・ブラーの指示でハマートンによからぬ噂を流したり、盗難などの事件を複数起こしたと告白したのだ。
シグヘルム・ブラーはこれに対して
「名誉なき下賤な者のいう事に過ぎず、信じるに値しない」
と反論した。
そうすると調査官は
「では、名誉ある従士(セイン)の言葉ならよいのだな」
と告げ、ある者を連れてきた。
足を引きずり、動かぬ左手を肩から布で吊り下げた姿が痛々しいその者は、自らをハマートンの領主エドリック・ハマーと名乗った。
彼の姿を見たシグヘルム・ブラーは驚愕の表情で叫んだ。
「なぜ?!なぜ生きている!!」
そんなシグヘルム・ブラーに冷たい一瞥を加えた後で、エドリック・ハマーは真実を話すと宣誓をした。
そして、エドリック・ハマーは、メイソンの持ち物としてブラーの紋章が入ったブローチを掲げながら、今回の訴えは全てブラー家の企みによる、事実無根の訴えであることと、その詳細を話しだした。
日が西に傾く頃には、全ての証言が揃い出た。
ハマー、メイソン、そして調査官。
この3者の証言が導き出した答えは全て、ブラーが悪意をもってハマーの名誉を貶め、領地簒奪を狙ったという内容だった。
すっかり青ざめ、言葉を失くしたシグヘルム・ブラー。
伯爵(エアルドールマン)は熟考の末に、次のように宣告した。
一つ、シグヘルム・ブラーは即時引退し、5歳の息子に領主権を継承させること。
一つ、息子が成人するまでエドリック・ハマーを後見人とし、その間ブラートンの領主代行としてエドリック・ハマーを任命するということ。
伯爵の裁定に対し、集会は万雷の拍手で締めくくられたとのことだ。
伯爵は王にため息交じりにこう告げた。
「まったく嘆かわしいことです。
我ら一丸となって、デーン人どもをこのブリテンよりなんとか退け、陛下の御代にやっと平和が訪れましたのに。
早速われらの間で争いなどと」
若きエドガー王は、やや物憂げに返事をする。
「兄が急に亡くなって、私が王位を継いで日がまだ浅い。
私の若さが招いた騒乱かもしれないな」
伯爵は恐縮してあたまを振りながら、こう言った。
「そんなに、ご自分を卑下なさらないでください。
あなた様を支えるために、われらがいるのです」
慰められた王は、屋外の流れる雲を見つめる。
「ともあれ、従士ハマーとハマートンはその名誉を回復したのだな」
若きイングランド王エドガーの治世は、デーン人の襲来がほとんどない平和な時代となり後の時代に「平和王」と呼ばれることとなった。
■エピローグ
裁判からしばらくたったある冬の夜。
館の暖炉の前にハマー家の面々が集まっていた。
一家の中心から、元気な赤ちゃんの声が聞こえる。
エドリックとエドマの子、女の子のエルヒルドの泣き声だ。
エドリックが大けがを負いつつも村に戻ったあの晩に、エドマが産気づき翌朝早朝にエルヒルドは産まれた。
回復後にエドリックは娘が生まれる瞬間に立ち会えなかったことを悔しがったが、それは妻を心配させた罰だとエドマが諭したという。
そういいつつも、二人の表情は幸せそうだった。
エドリックを無事村に連れ帰ったスノターは、実は「お土産」も持ってきていたのだ。
それは縄で両手をくくられたメイソンだった。
彼はスノターにつながれたまま延々連行され、村に着いたときは抵抗する意志も失くし、素直に捕まったという。
部屋の扉が開くと、エグビンとフレッチャーが入ってきた。
二人は見回りの報告をエドリックにすると、エドリックは腰かけて蜂蜜酒を飲むよう勧めた。
ブラー家の襲撃の後、エグビンとフレッチャーは大けがを負ったものの、捕虜として生きていた。
エリクが死力を尽くして戦い抜いたため、二人はかろうじて生き残ったと言えるだろう。
エリクは大きな笑い声と「オーディン」という神の名前を何度も叫びつつ、ブラートンの兵士たちを次々と屠っていった。
最後に、6本の槍に貫かれてこと切れた時は、満足そうな笑みだったという。
彼は、きっと彼の信じる神々のところ(ヴァルハラ)にいったのだろう。
エグビンが捕まりそうな時、ハマー家で使われる山羊のレリーフを縫ったマントを被った遺体に覆いかぶさって泣いていたという。
遺体の顔は焼け焦げ、切り傷も多く判別がつかなかった。
状況からしてエドリックの遺体だろうと考えたブラーの生き残りの兵は、シグヘルム・ブラーに捕虜を連れて行きつつ自分たちがいかに首尾よく仕事を成し遂げたか報告したわけだ。
実は、エグビンがひと芝居した結果だったわけだ。
エドリックをスノターに乗せ、メイソンを縄で縛ってスノターの鞍に素早くくくりつけたのもエグビンだ。
彼の機転と知略に、エドリックは何度も救われている。
エドリックは、今回の働きと普段の献身に報いるためとしてエグビンに新しく土地を与えたいと、伯爵(エアルドールマン)に上申しているらしい。
エグビンは固辞しそうだが、エドリックにしたらこんなものでは全然足りないという思いだ。
暖炉の薪が爆ぜる音がする。
冬のごちそうと蜂蜜酒とで、皆の顔は上気し笑顔に包まれている。
ハマー家とハマートンにしばしの平穏が訪れたのだ。
~終幕~
* 呪文詩の訳文は、唐沢 一友 (著)アングロ・サクソン文学史:韻文編 (横浜市立大学叢書—シーガルブックス, 東信社, 2004) より引用しています。
◆解説編1
■ワイルドハント
ワイルドハントとは、空や大地を大挙して移動する伝説上の猟師団です。イギリスをはじめ、西欧から東欧まだ幅広い地域に伝えられる民間伝承に登場します。
狩猟道具を携えた亡霊や妖精が馬や猟犬と共にリーダーに率いられ、目撃者には死をもたらすとも、戦や疫病をもたらすとも言われています。
ワイルドハントのリーダーは、オーディンやアーサー王など国によって異なります。
イギリスでは、例えば修道院の歴史を記したピーターバラの年代記(1122年)や、12世紀の書籍で伝えられています。そこでは、ブリトン人の伝説の王「ヘルラ」が、ワイルドハントのリーダーとされています。
ヘルラ王が妖精郷で妖精の結婚式に出る間に地上では何百年も経過し、アングロ・サクソンの支配の時代になっていました。ヘルラ王は驚くものの、妖精の呪いで馬から降りることができなくなり、供と一緒にさまようことになる。これがヘルラ王のワイルドハントの始まりとされています。
一方で、ウォーデンまたはオーディンが率いるワイルドハントには、ヴァルキリーとも考えられる「猛き乙女」達が従うという話もあります。
■回復の呪文が刻まれた指輪
現在大英博物館には、アングロサクソン時代の金の指輪が保管されています。
指輪が発見された場所にちなんで「キングムーアの指輪」と呼ばれています。
キングムーアの指輪には、ルーン文字で呪文が刻まれています。
内容は出血や苦痛を禁じる、治癒・回復の呪文と推測されています。
同じ呪文は、ハードウルフも持っている医療書「ボールドのリーチブック」にも記載され、指輪の呪文の解読に一役かったそうです。
■地力回復の呪文詩
ハードウルフが唱えていた地力を回復する呪文詩の内容は、呪文詩の中で一番キリスト教の影響が色濃いものです。
物語で描かれなかった儀式の前半の内容は、こんな感じです。
畑から4つ芝生を取り、根の部分に蜂蜜、香油、ミルクなどを混ぜたものをぬり、キリスト教のミサに運び、再び畑に戻したあと地面に植えて小さな十字架を立てます。
そして司祭にキリスト教の祈りをさせたり、聖水を使ったりとかなりキリスト教的な内容で儀式は進みます。
土地が作物を育む力も、外部からの超自然的な悪しき力で阻害されると、当時は考えられてました。
そのため、白魔術の儀式によって悪しき力に打ち勝つという発想が、この呪文詩の根底にはあります。
身体を回復させる呪文詩と発想は同じですね。
呪文詩の終盤にでてくる「エルケ」とはゲルマンで古来から信仰されている大地母神ではないかと考えられています。
この部分は、古代ゲルマンの伝統を引き継いだ内容のようです。
一方で、呪文詩の内容は「ノアの箱舟」の洪水伝説を儀式的に再現したものとする説もあります。
呪文詩では聖書のノアのように神との人類の契約を再構築しそこから新たな生命が生まれる再生の箱舟を構築することで、地力をよみがえらせようとする内容でもあるとしています。
■アングロ・サクソン時代の農業
この時代の畑の作物は一粒小麦、大麦、ライムギ、燕麦、エンドウ豆、レンズ豆などでした。
また、家畜として牛、豚、鶏、羊なども飼っていました。
9世紀頃には、何も作物を植えずに畑を休ませる「休耕地」もあったようですが、次第に地力を失っていく事も大きな悩みの一つだったのでしょう。
ちなみに中世の農法として有名な三圃式農業がブリテン島に登場するのは、13世紀頃という話があります。
三圃式農業とは、土地を冬の作物、夏の作物、休耕地の三種類に区画整理し、輪作によって生産性を向上させる中世ヨーロッパ時代の農法の一つです。
■紛争の解決と裁判
中世の裁判と言えば、決闘の勝敗で決着をつける「決闘裁判」が有名です。
実は、ブリテン島に決闘裁判が持ちこまれたのは、11世紀以降と考えられています。
また当時は、神明裁判といって大けがをするような試練を被告・原告双方に課して、「神の加護」で傷がほとんど無いほうを正しいとする呪術的な裁判もされていたそうです。
例えば火で熱した鉄の棒を素手でもって運んだあとの火傷具合で判断する熱鉄裁判や、熱湯から石を取り出して火傷具合で判断する熱湯裁判などがあったそうです。
しかし、多くの場合は「賢人会議」という王や伯爵(エアルドールマン)が主催する会議にて原告・被告双方の話を聴いて、任命した調査官の報告を参考に吟味し裁定していたようです。
今日のような裁判のみを専門とする機関はまだありませんでした。
◆中世初期〜中期のブリテン島
ヴァイキングとも呼ばれるデーン人達は、8世紀末にブリテン島に侵攻します。
当時七王国を形成していたアングロ・サクソン人達は必死に抵抗します。
しかし、侵攻はとどまらずデーン・ロウとよばれる広大な土地をデーン人に奪われます。
その後、アルフレッド大王が軍制を改革し、セインやフュルドといった軍制が整います。
その孫のアゼルスタンがデーン人を打ち破りイングランドの王となります。
物語に出てきたエドガー王の治世(942年〜975年)は、デーン人の襲撃も少なく比較的平和な時代でした。
そのため、彼は「平和王」の異名も持ちます。
しかし10世紀末になると、再びデーン人が襲来する時代となります。
11世紀にはデーン人に支配され、1066年のノルマンディーからの大攻勢「ノルマン・コンクエスト」によって、アングロ・サクソンの王朝は途絶え、ノルマン朝の治世が開始されます。
◆その後の呪文詩
エドガー王の治世に、世俗化していた各キリスト教会に厳格な戒律を持ち込む宗教改革が実施されています。
10世紀以降、呪文詩が使われたのかどうかははっきりとわかりません。
しかし、イギリスにはカニングマン、カニングウーマンと呼ばれる古代由来の魔法などを使う人々が近世までいました。
もしかしたら、呪文詩の系譜は彼らの中で細々と続いていたのかもしれません。
◆最後に感謝の言葉
この物語と歴史まとめを発表する機会をくださり、また暖かくご指導くださった杉本ヨハネさんとFT書房のみなさんに、最大の感謝をささげます。
また、2024年に増補改訂という機会をくださり、ふたたびFT新聞に掲載いただく機会を作ってくださったFT書房の水波流さんにも最大限の感謝を申し上げたいと思います。
そして、FT新聞やX(旧Twitter)などで沢山の反応と感想をいただき、誠にありがとうございました。
皆様のおかげで、呪文詩という面白いテーマを紹介する事ができました。
本当にありがとうございました!
◆参考文献
唐沢 一友 (著)アングロ・サクソン文学史:韻文編 (横浜市立大学叢書—シーガルブックス, 東信社, 2004年)
唐沢 一友 (著)アングロ・サクソン文学史:散文編 (横浜市立大学叢書—シーガルブックス, 東信社, 2008年)
吉見昭徳(著)古英語詩を読む ~ルーン詩からベーオウルフへ~(春風社,2008年)
ウェンディ・デイヴィス/編 鶴島博和/監訳 オックスフォード ブリテン諸島の歴史 3 ヴァイキングからノルマン人へ (慶應義塾大学出版会,2015年)
(カレル・フェリックス・フライエ)Karel Felix Fraaije, Magical Verse from Early Medieval England: The Metrical Charms in Context, English Department University College London,2021,Doctoral thesis (Ph.D)
King Herla and the Wild Hunt Walter Map - The Courtier's Trifles Bodl. MS. 851
https://www.maryjones.us/ctexts/map1.html
※ ワイルドハント「ヘラル王の狩猟団」伝説について書かれた記事
finger-ring
https://www.britishmuseum.org/collection/object/H_OA-10262
※回復の呪文のルーン文字が刻まれた指輪についての、大英博物館の解説ページ
Anglo-Saxon Inscribed Rings
https://digital.library.leeds.ac.uk/433/
※回復の呪文のルーンについて解説されている文献
Handbook of the old-northern runic monuments of Scandinavia and England : Stephens, George, 1813-1895
Anglo-Saxon Inscribed Rings,Elisabeth Okasha ,2003
(スカンジナビアとイングランドの古代北方ルーン文字碑のハンドブック)
https://archive.org/details/cu31924026355499
※回復の呪文のルーンについて解説されている文献その2
中世初期イングランドにおける集会をめぐって,森貴子,愛媛大学教育学部紀要 第61巻 181〜190 2014
アングロ・サクソン期ウスター司教区の訴訟一覧,森貴子,愛媛大学教育学部紀要 第67巻 213~225 2020
中世初期イングランドの紛争解決Fonthill Letter を素材に(1),森貴子,愛媛大学教育学部紀要 第63巻 275~284 2016
中世イングランドにおける決闘裁判,光安徹,成城法学42号,1993